歯周病が脳卒中の発症や発症後の経過に強く関連している
歯周病が脳卒中の発症や発症後の経過に強く関連している
歯周病菌「フソバクテリウム」と脳卒中の関係性に関する研究
研究の背景・文脈
歯周病とは、歯を支える組織に炎症が起こる感染症の事で、日本人成人の80%が罹患していると考えられている"国民病"の一つです。歯を失う最大の原因ですが、近年歯に対する影響だけでなく、糖尿病、心筋梗塞、認知症、関節リウマチ、癌など様々な全身疾患の発症に歯周病が関与していることが明らかとなり大きな注目を集めています。脳卒中の発症にも関連していることが分かってきていますが、詳しいことはまだ解明されていません。
研究の目的
今回私たちは、歯周病の原因となっている歯周病菌(400種類以上あると言われています)の中で、特に歯周病の発症に強く関与しているとされる複数の歯周病菌に注目し、歯周病菌の感染が脳卒中の発症や経過に関連しているか、関連しているのであればどの菌が脳卒中にとって良くない影響を与えているのかを明らかにするために研究を行いました。
研究方法の概要
脳卒中を発症して入院した患者さんの血液や舌の表面に存在する舌苔(舌の白い部分)を採取して、その中に含まれる歯周病菌に対する抗体(菌と戦うためのタンパク質)や歯周病菌の量を測定し、それらが患者さんの脳卒中の画像所見や発症後の経過と関係しているかを調べました。
主要な発見・結果
調べた歯周病菌の中で、フソバクテリウムという歯周病菌の血液の中の抗体価や舌苔に含まれる割合が大きいことが、脳卒中発症後の経過が悪いことや脳の中の細い血管が障害されて発症する脳のダメージ(脳小血管病)に強く関連していることが明らかとなりました。
社会的意義・インパクト
脳卒中は現在日本人の死因の第4位、寝たきりの原因の第1位の疾患です。歯周病菌の存在が脳卒中の発症や発症後の経過に関連していることが明らかとなったということは、適切な口腔ケアを行うことにより脳卒中の発症を予防できる可能性、また脳卒中になってしまったとしても後遺症を軽くできる可能性があり、健康寿命の延伸という観点から非常に大きな意義があると考えられます。
今後の展望
フソバクテリウムをターゲットとした抗菌治療を行うことにより、脳卒中の発症予防や転帰の改善につながるかを検討していきたいと考えております。また、最新の研究ではデンタルフロスを定期的に使用していた人たちの脳卒中の発症率が低いという結果も出ており、家庭でもできる日常的な口腔ケアがどの程度脳卒中の発症や経過に影響するかも検証します。
一般の方へのメッセージ
歯周病が脳卒中を始めとした様々な全身疾患と関連していることが次々と明らかになっております。「お口の健康=体の健康」です。毎日の歯磨きを丁寧に行い、定期的に歯科を受診するようにしましょう。