病気のこと
病気のこと
心臓病・脳疾患・歯科疾患
心臓病について
心不全とは、心臓のポンプ機能が低下することで、体が必要とする血液(酸素や栄養)を十分に全身に送ることができなくなった結果、様々な症状が出現する症候群であり、一度、発症すると進行性の病気です。様々な心臓病(原因疾患)の結果として生じる「状態」であり、単一の病名ではないため、自覚症状や治療法も、個々の状況により異なります。
虚血性心疾患、弁膜症、心筋症、不整脈など、多くの心臓病が原因疾患となります。その他、直接的な原因とは異なりますが、加齢や肥満なども心不全のリスク因子となります。
呼吸困難、息切れ(特に階段や坂道での)、寝るときなどに悪化する咳、むくみ(特に足首や脚)等が主な症状ですが、疲労感や食欲の低下等も生じる事があります。
心不全は多くの原疾患から生じるため、各々の原疾患に対する予防が大切です(次項目以降を参照)。心不全と診断された後は、禁煙、適正な体重の維持(毎日の体重測定で、目標体重を維持します)、塩分摂取の制限(1日6g未満が推奨)、有酸素運動(息切れが出ない程度の比較的長く続けられる運動)、睡眠と休息の確保などの生活療法が心不全の悪化の予防策です。 心不全は完治する病態ではありませんが、適切な管理と生活習慣の改善により、自覚症状をコントロールし、生活の質を維持することができます。
呼吸ができないほどの息苦しさや咳、我慢できないほどの胸の痛みや圧迫感、意識の低下、等の症状が発生した場合は、すぐに医療機関を受診してください。
虚血性心疾患とは、心臓の血管(冠動脈)が狭窄したり閉塞したりすることで、心臓の筋肉に十分な血液が供給されなくなる病気です。心臓の筋肉(心筋)への血液供給がたたれ、心筋壊死(細胞が死んでしまうこと)をおこした状態が心筋梗塞で、発症した場合は命を失う危険性が高い疾患です。一時的な血液の供給不足で胸の痛みなどを感じるが心筋壊死には至っていない状態が狭心症です。ただし狭心症が心筋梗塞の前兆となっている場合があります。
心臓の血管の壁に生じる動脈硬化性変化が原因となりますが、その危険因子は高血圧、糖尿病、脂質異常症(LDLコレステロール高値)喫煙、肥満、ストレス、加齢などがあります。
胸・腕や肩・顎の、冷や汗を伴うような強い痛み、圧迫感が主な症状ですが、息切れ、吐き気、めまい、急激な疲労感などの症状が出る場合もあります。
上記の危険因子をなるべく減らすことが大切です。危険因子の中には健康診断でわかるような生活習慣病も多いため、定期的な健康診断を受け、専門的なアドバイスをもらうことも大切です。
※上記の症状が30分以上持続するときや、症状が繰り返しおこるとき、我慢できない強い症状の場合には、すぐに医療機関を受診してください。
虚血性心疾患の発症予防および発症後の再発予防のためには、生活習慣のコントロールが重要です。
心臓には、血液の逆流を防ぐために4つの弁(僧帽弁、大動脈弁、三尖弁、肺動脈弁)があります。この弁のいずれかに異常(狭窄や閉鎖不全など)が生じて、弁が適切に開閉できなくなり、血液の正常な流れが妨げられた結果、心臓の働きに影響を与える病気です。
先天的な心臓の構造異常、加齢による弁の変性、過去のリウマチ熱という病歴、感染性心内膜炎(心臓の弁に感染を生じる疾患)、高血圧、外傷などによる心臓の変形や損傷などがあります。
軽症の弁膜症では症状はありません。弁膜症を原疾患として心不全の状態になると、上記の心不全症状が生じてきます。
心不全同様、呼吸ができないほどの息苦しさや咳、我慢できないほどの胸の痛みや圧迫感、意識の低下などの症状が発生した場合は、すぐに医療機関を受診してください。
弁膜症は早期発見と、食事(減塩)や運動、内服などによる適切な血圧や体液管理により、多くの場合良好な経過を辿ることができます。
心筋症とは、心臓の筋肉(心筋)に何らかの原因で異常が生じ、心臓の形や機能に変化が起こる病気です。心筋に異常が生じることで心臓のポンプ機能が低下し、正常な血液循環が難しくなることがあり、進行性の疾患です(ただし進行のスピードは様々です)。主に拡張型、肥大型、拘束型などの種類があり、それぞれ異なる特徴があります。
遺伝的素因、代謝性疾患、他疾患で使用される薬物療法や放射線療法の影響、自己免疫疾患、ウイルス感染、アルコールや違法薬物の過剰摂取、極端な栄養不足などが挙げられますが、原因不明な場合も多くあります。
軽症の心筋症では症状はありません。心筋症を原疾患として心不全の状態になると、上記の心不全症状が生じてきます。
心不全同様、呼吸ができないほどの息苦しさや咳、我慢できないほどの胸の痛みや圧迫感、意識の低下などの症状が発生した場合は、すぐに医療機関を受診してください。
心配な症状がある場合は、信頼できる医療専門家に相談ください。適切なサポートを受けることが最も重要です。
不整脈は、心臓のリズム(鼓動)が乱れる状態を指します。通常、私たちの心臓は電気の信号によって動いており、規則正しいリズムで動き、血液を全身に送り出しています。しかし、電気信号が何らかの理由で異常を起こすと、不整脈(リズムが速すぎたり:頻脈)、遅すぎたり:徐脈)、あるいは不規則になったりする)が起こります。
各種不整脈疾患により、その原因は異なりますが、主なものとしては、加齢(年齢とともに心臓の電気指令系統が変化する)、心臓病(心臓病により心臓の電気指令系統が障害される)、生活習慣(主に心房細動:ストレスや睡眠不足、過度な飲酒やカフェイン摂取など)、その他(甲状腺の病気、電解質の異常、遺伝的な要因)があります。
各種不整脈疾患により、自覚症状は異なります。動悸、息切れ(軽い運動でも息苦しくなることがある)、めまい・ふらつき、胸の痛み、失神(重度の場合は心停止に至ります)などがありますが、無症状の不整脈もあります。
我慢できないほどの強い動悸、意識の低下・失神、強い息切れや呼吸困難感、強い胸の痛みや圧迫感などの症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。
各種不整脈疾患の一つである心房細動は、心臓のリズムが乱れる病気ですが、すぐに危険というわけではありません。ただし、放置して重症化すると心不全や脳梗塞のリスクが高まります。気になる症状があれば早めに受診し、正確な診断と適切な治療を行うことが大切です。
脳疾患について
脳の中の血管がやぶれて出血が起こった状態を「脳出血」といいます。原因の約8割は「高血圧」と言われています。残りの2割はアミロイドアンギオパチー(アルツハイマー型認知症に合併しやすい)や動静脈奇形、静脈洞血栓症などがあります。
血圧をなるべく早く下げる降圧療法が中心になります。脳出血の場所、血腫量によっては外科的な手術療法がおこなわれる場合もあります。状態が安定したらリハビリテーションを行い、残された脳機能の維持・回復を行っていくことが重要です。
脳出血は頭部CTで白く(高吸収)みえます。


血圧の厳格な管理が必須です。適度な運動とともに塩分を控えめにして、バランスの良い食事が大事です。お酒を毎日飲んでいる、漬物に醤油をつけている、ラーメンの汁を飲み干す習慣がある、などは要注意です。
脳梗塞とは、脳の血管が何らかの原因で閉塞することにより、その先の細胞に酸素や栄養が行きわたらなくなり、最終的には回復不可能な脳のダメージをきてしまう病気です。ほとんど症状が無い場合から命にかかわるような重篤な症状を呈してしまう場合まで様々で、閉塞する血管の場所や太さによって症状や重症度には大きな違いがあります。
脳梗塞の原因は大きく分けて二種類あることが知られています。一つは高血圧症、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病によって引き起こされる動脈硬化による血管の閉塞です。
このタイプの脳梗塞は、原因となる血管の太さによってラクナ梗塞とアテローム血栓性脳梗塞という二つに分かれます。
動脈硬化による脳梗塞の発症を予防するためには、生活習慣病の管理が非常に重要であり、食生活や運動習慣などを日頃から気を付けるようにしてください。
もう一つの原因は心臓に心房細動という不整脈があることによって、心臓の中で血液がよどんで血のかたまり(血栓)ができてしまい、その血栓が脳の血管にたどり着いたことによる血管の閉塞です。このタイプの脳梗塞を心原性脳塞栓症と言います。不整脈はなかなか自分では気が付きにくいかもしれませんが、動悸がする、脈が時々飛ぶことがある、などの症状に気が付いた場合は早めに医師に相談してみてください。
脳梗塞は発症してからいかに早く治療を開始するかがとても大切です。
発症から時間が経過していない場合のみに行うことができる治療があり、早く治療を開始できれば、その後の症状が改善する可能性が高くなることが知られています。脳梗塞になってしまったかどうかを判断する際は、以下の3つのポイントを確認してください。
- ① 顔面(Face):片方の顔だけ歪んでいないか?片方の口角だけ下がっていないか?
- ② 腕(Arm):両腕を伸ばして手のひらを上に向けて10秒間同じ姿勢でキープできるか?
- ③ 言葉(Speech):短い文章を正しく流暢に言えるか?簡単な物の名前がすぐ言えるか?
これらの所見が1つでもあれば、発症時間(Time)を確認して躊躇せずにすぐに(FAST)救急車を呼ぶようにしてください。
FASTってしっとる?くも膜下出血は脳を覆っている膜(くも膜)の下に出血が広がる病気のことです。発症した場合には、死亡率:25~50%、重度後遺症:30~40%、社会復帰:30%程度といわれている重篤な病気です。

脳動脈瘤の破裂によるものが大部分ですが、その他、血管奇形や外傷なども原因となることがあります。

・典型的には「頭を殴られたような」突然の激しい頭痛です。
・嘔気、嘔吐を伴うことも多いです。
・重症になれば、意識を失います。
・微小な出血が起こり、突然の頭痛をしたり、動脈瘤の増大で物が2重に見えたりすることがあります。(これらの症状は本格的なくも膜下出血の前兆であることがあります)
くも膜下出血を起こした動脈瘤は高率に再出血を起こし、さらに状態を悪化させます。そのため再出血予防のための治療が必要です。以下の二つがあります。(どちらを選択するかは、全身状態や動脈瘤の状態によって決定することになります。)
1) 脳動脈瘤頚部クリッピング術
・全身麻酔をかけ開頭を行ったのち、顕微鏡を使い脳の隙間を分けて動脈瘤まで到達します。続いて動脈瘤の根元(頚部)をクリップで挟み、血液が動脈瘤内に流入しないようにする手術です。昔から広く普及している確実性が高い治療ですが、動脈瘤が深部にある場合、全身状態が悪いなどの場合には困難となります。


2) 脳動脈瘤コイル塞栓術 (血管内手術)
・カテーテルを用い、開頭を行うことなく血管の中から脳動脈瘤の治療を行います。主に動脈瘤内にプラチナ製のコイルを挿入し、動脈瘤を閉鎖します。局所麻酔でも治療は可能で体への負担はクリップと比べると小さくなりますが、動脈瘤の形状によっては治療が困難であったり、再発の可能性もあります。今後は新たなデバイスの使用でさらに治療の幅が広がることが予測されます。


・手術後も2週間程度は脳血管攣縮(脳血管が非常に細くなり脳梗塞が生じる)に注意が必要です。これが起これば血管内治療で血管を拡張させることもあります。
・また水頭症(髄液が過剰にたまった状態)となり、シャント手術などが必要となることもあります。


くも膜下出血は生命にかかわる重篤な病気です。疑わしい症状があれば、救急要請を行い、すぐに医療機関を受診してください。
歯科疾患について
歯周病は、歯周病原細菌の感染によって歯ぐきに炎症が起こり、最終的には歯が抜けてしまう病気です。歯周病は口の中の病気ですが、糖尿病、関節リウマチ、心臓病(感染性心内膜炎、狭心症、心房細動)、早産・低体重児出産、アルツハイマー病など、全身の病気とも関係があることがわかっています。
- 歯周病菌が血液を通じて全身に広がる。
- 歯ぐきで作られた炎症物質が血液を通じて他の臓器に影響を与える。
- 歯周病菌が腸内の細菌バランスを変え、全身に影響を及ぼす。
感染性心内膜炎は歯周病菌が血液を通じて心臓に感染することで起こります。狭心症や心筋梗塞は、歯ぐきで作られた炎症物質が冠動脈にプラーク(脂肪の塊)を作り、血管を狭くすることで引き起こされます。心房細動についても、歯周病による歯ぐきの炎症や、特定の歯周病菌(Porphyromonas gingivalis)の感染が心房の線維化や手術後の再発率に影響を与えることがわかっています。
歯周病の治療が心臓手術後の予後に影響することもわかっているため、心臓病を持つ患者さんは歯周病の治療や定期的な口腔ケアが重要です。
予防法には、正しい歯磨きと定期的な歯科健診があります。正しい歯磨きによって、歯の周りの歯周病の原因となる細菌を除去することが最も重要です。さらに、定期的な歯科健診によって自分では気づきにくい歯肉の状態を専門家に確認してもらうのも重要です。
治療法には、基本的な治療と外科的な治療があります。基本的な治療では、超音波などを使用して歯垢や歯石を除去します。基本的な治療で改善しない場合に、外科的な治療によって歯と歯肉の溝の深さを減少させ、失われた骨を再生させます。これらの治療で炎症がなくなり、歯と歯肉の溝の深さが改善したら、定期的なメンテナンスに移ります。
口腔内のバイオフィルム(デンタルプラーク)は、細菌が作る粘着性の層で、むし歯や歯周病の原因です。予防するためには、毎日の歯磨きで物理的にバイオフィルムを破壊することが必要です。
歯ブラシやデンタルフロス、歯間ブラシを使って、バイオフィルムの保護層を剥がし、細菌を露出させます。この後に抗菌成分を含む洗口液の使用は効果的です。
定期的に歯科を受診し、クリーニングを行うこともおすすめです。
周術期における口腔ケアは、本人の全身状態を良好に保つために非常に重要です。
手術前に歯科を受診し、口腔内の清掃や治療を実施することで、細菌の増殖を抑え、手術中の安全性の向上や手術後の感染リスクを減らすことができます。
手術前の口腔ケアは、歯周病の炎症部位から細菌が血中に侵入するのを防ぎ、術中術後の感染性合併症の予防につながります。
糖尿病や心疾患を有する方は、口腔内の感染が全身の病状を悪化させるリスクがあるため、特に注意しましょう。
その他の情報
(病状説明と同意)
先進医療について
先進医療とは、厚生労働大臣が定める最新の医療技術を用いた治療で、現時点では保険診療の対象とならないものを指します。
そのため、先進医療にかかる費用は全額患者さんの自己負担となり、高額療養費制度の適用も受けられません。治療によっては、数十万円から数百万円の費用がかかる可能性があります。
一方、先進医療と保険診療の併用は認められており、先進医療に関わる費用以外の診療部分には保険が適用され、高額療養費制度も利用できます。
また、先進医療特約付きの医療保険に加入している場合、先進医療にかかる費用が保険でカバーされることもありますので、ご自身の保険内容を確認しておくとよいでしょう。
先進医療は、医師がその必要性と合理性を認め、患者さんが希望した場合に行われます。最新の技術を使用するため、効果が十分に確認されていないこともあります。先進医療を受ける際は費用面を含め、治療のメリット・デメリットを理解し、納得した上で選択することが大切です。
先進医療の対象となる疾患や、先進医療を受けられる医療機関についての最新情報は、厚生労働省のホームページで確認できます。なお、先進医療を受ける際も、通常の保険診療と同様に、被保険者証を病院窓口に提出する必要があります。治療を検討する際は、主治医によく相談し、しっかり考えたうえで決めてください。
インフォームドコンセント(病状説明と同意)
説明の内容がわかりにくい際には、遠慮せずに説明場面に同席している医療者へお声がけください。ご質問に対してお答えできる内容であれば、看護師が対応いたします。改めて医師からの説明をご希望であれば、日程を調整いたします。
セカンドオピニオンについて
主治医から診断や治療方針の説明を受けても、十分に納得できなかったり、現在の治療を継続してよいか不安に感じたりすることはよくあります。このような場合は、「セカンドオピニオン」を活用することができます。
セカンドオピニオンとは、主治医とは別の医師から診断や治療方針について意見をもらうことです。たとえば、「内科治療と外科治療のどちらを選ぶべきか迷っている」や、「大きな手術を勧められているが、本当に受けるべきか不安がある」といった場合に、セカンドオピニオンは有効です。主治医と異なる医師の視点からの意見を聞くことで、病気についての理解が深まり、納得したうえで治療に臨むことができます。
ただし、セカンドオピニオンは現在の治療を見直すためのサポートとして行われるものであり、以下のようなケースはセカンドオピニオンの対象外となります。
- 医療訴訟や医療事故調査を目的とする相談
- 主治医に対する不満や転院を目的とする相談
- 亡くなられた患者さんに関する相談
- 治療費用に関する相談
セカンドオピニオンを希望する場合は、まず主治医に相談し、これまでの検査結果や治療経過を記載した紹介状を作成してもらうことが必要です。また、セカンドオピニオンは健康保険の適応外となるため、費用は全額自己負担となります。費用は医療機関によって異なるため、事前に確認が必要です。
下図は広島大学病院におけるセカンドオピニオンの流れを示していますので、参考にしてください。

緩和ケア・終末期ケアについて
心臓病の治療やサポートには、「標準的ケア」「緩和ケア」「終末期ケア」という 3 つの考え方があります。それぞれの目的や特徴を説明します。
慢性心不全の進行を遅らせ、できるだけ長く健康的な生活を送ることを目指した治療です。 主に以下のような治療が行われます。 ・薬物療法(β遮断薬、ACE 阻害薬、利尿薬など) ・生活習慣の改善(減塩、適度な運動、体重管理など) ・医療機器の使用(植込み型除細動器、心臓再同期療法など)
病気のどの段階(ステージ)でも受けられるサポートで、標準的ケアと並行して行われることもあります。特に、病気が進行してきたときだけでなく、病期の早い段階から症状を和らげ、生活の質(Quality of Life, QOL)を向上させることを目指した治療です。主に以下のようなサポートが行われます。 ・症状の緩和(息切れ、むくみ、疲労感、不安の軽減) ・日常生活の支援(食事の工夫、介護のアドバイス) ・精神的・心理的なサポート(不安や抑うつへの対応) ・家族の支援(介護負担の軽減、相談対応)
標準的ケアによる治療が難しくなり、病気が進行して「延命よりも生活の快適さを重視する」段階で行われるケアです。最期の時間を穏やかに過ごせるよう支えることを目指します。 具体的なサポート内容は以下の通りです。 ・痛みや苦しさを最小限に抑える治療(呼吸困難感の緩和、鎮痛薬の使用など) ・生活の快適さを優先するケア(ベッド上での楽な体勢の工夫、食事の調整) ・患者さんと家族の心のケア(不安の軽減、最期の過ごし方のサポート) 病状の変化に合わせて「標準的ケア」→「緩和ケア」→「終末期ケア」へと移っていくことはありますが、緩和ケア=終末期ケア ではありません。

心停止や呼吸停止が起こった場合に、心肺蘇生を行わないという指示です。 この指示は、事前に主治医と患者さん、そして家族が話し合い、同意を得たうえで適用されます。よく『DNAR は治療をすべてやめること』と誤解されますが、これは特定の状況で心肺蘇生を行わない方針を示しているだけで、他の治療やケアは引き続き行われます。DNAR は、延命処置を望まない方や、自然な経過を希望している方が選ばれることが多いですが、重要なのは、DNAR を選んでも他の医療ケアが続けられるという点です。患者さんの希望に基づいたケアが、引き続き適切に提供されます。
将来の医療ケアについて、患者さんや家族が事前に話し合い、計画を立てるプロセスです。どのような治療やケアを希望するか、または望まないかを文章化しておくことで、予期しない事態が起こった時も患者さんの意向に添った医療が提供されるようになります。ACP は、患者さんの価値観や希望を尊重し、将来の治療方針を決めておくための手段です。さらに、病状や状況が変わった場合には、その内容を何度も見直し、変更することができるため、柔軟な対応が可能です。
終末期における意思確認は、患者さんの価値観や希望を治療に反映させるために非常に重要です。適切な意思確認を行うことで、最期の時まで患者さんの希望に寄り添った治療を提供することが可能になります。確認すべき事項には、以下のような内容が含まれます。 ・延命治療を希望するかどうか(例:心肺蘇生、人工呼吸器の使用など) ・緩和ケアの進め方(痛みや苦しみの緩和をどのように希望するか) ・その他の医療措置に関する希望(輸液や栄養補給、鎮静など)
特に心不全のような進行性で根治が難しい疾患の場合、症状の悪化と改善を繰り返しながら進行することがあります。医療技術の進歩により、以前は受けられなかった治療が高齢者や重度の心臓病患者でも可能になっていますが、患者さんが望む治療を受け、望まない治療を避けるためには、事前に意思確認を行っておくことが非常に重要です。
病状が悪化してから意思決定を行うことは、患者さんにとって大きな精神的・身体的負担になるため、病状が安定している時期に家族と一緒に将来の治療方針について話し合うことが大切です。このような話し合いの過程で、別項で説明しているACP(advanced care planning)が非常に重要な役割を果たします。ACP は、将来の医療について患者さんの希望を反映させるための計画作りであり、事前に考え、共有することで、患者さんの意向に基づいた医療ケアを実現することができます。
予期しない出来事や突然の病気で、自分の希望を伝えることができなくなるかもしれません。 そのため、自分で判断できなくなった時に代わりに伝えてくれる人(代理人)を選んでおくことが大切です。医療や生活に関する希望や思いを家族・代理人や医療者と話し合い、「私の心づもり(広島県地域保健対策協議会)」1)などに記録として残しておくことで、状態が悪くなり自分で伝えることができなくなった場合にも、あなたの考えが医療やケアに反映されます。 わたしの心づもりは、以下のURLより入手可能です。患者さん・家族、医療関係者で一緒に最善の医療やケアについて考えていきましょう。 広島県地域保健対策協議会.もしもの時のために伝えておきたいこと Advance Care Planning(ACP). https://citaikyo.jp/other/acp/index.html(2024年8月13日閲覧).